最新の研究成果

龍涎香の主成分アンブレインに ビタミンD受容体結合能があることを解明 ~薬剤等への利用に期待~

2024年1月25日

  • プレスリリース
  • 理学研究科

新潟大学自然科学系(農学部)生物有機化学分野の佐藤努教授・上田大次郎助教、同大学大学院医歯学総合研究科/歯学部歯科薬理学分野の柿原嘉人助教、富山県立大学の安田佳織准教授・磯貝泰弘教授、大阪公立大学の品田哲郎教授、ベルリン自由大学のChristmann教授らの共同研究グループは、マッコウクジラ由来の「幻の高級香料・漢方薬・伝承医薬」である龍涎香(りゅうぜんこう)の主成分アンブレインにビタミンD受容体結合能があることを解明し、さらにアンブレインよりも受容体親和性が高い化合物を酵素合成することに成功しました。龍涎香がもつ生物活性を薬剤等として利用するための新たな道を拓く成果です。
本研究成果は、2024年1月16日、科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。

本研究成果のポイント

龍涎香の多様な生物活性の一部がビタミンD受容体を介したものであることが示唆されました。
一方で明らかにビタミンD受容体が関与しない生物活性も見出し、龍涎香の生物活性の作用点は多様であることも示しました。
変異型アンブレイン合成酵素を用いて自然界から見出されていない化合物を合成し、アンブレインよりも高いビタミンD受容体親和性をもつ化合物を創出しました。
龍涎香の生物活性を薬剤等として利用するための新たな道を拓くことが期待されます。

Ⅰ.研究の背景

龍涎香はマッコウクジラから得られる腸管結石です。紀元前より、高級な香水等として世界中で香料として利用されていましたが、商業捕鯨が禁止されてからは、ほとんど入手不可能な「幻の香り」とも言われています。稀に、海岸等で打ち上げられた時には、高値で取引されることが世界中でニュースになります。また、龍涎香は漢方薬や伝承医薬にも用いられており、その生物活性にも興味がもたれています。現在、龍涎香やその主成分アンブレイン(図1)の生成機構は不明であり、その生合成酵素・遺伝子を利用することも不可能です。このような背景から、本研究グループは新しい酵素である「アンブレイン合成酵素」を人工的に創出し、生合成による供給経路の確立に着手するとともに、アンブレインの香気成分への化学変換、ならびに生物活性評価研究をあわせて展開してきました。

Ⅱ.研究の概要・成果

龍涎香は万能薬としても利用されていたことから、多様な生物活性をもつことが考えられます。ビタミンDにも多様な生物活性が報告されており、サプリメントとして利用されるとともに、類縁体が皮膚疾患や骨疾患の治療薬として使用されています。本研究では、アンブレインの化学構造がビタミンDと類似していることに着目しました(図1)。解析の結果、アンブレインにビタミンD受容体結合能があることが明らかになったことから、龍涎香の多様な生物活性の一部はビタミンD受容体を介したものであることが示唆されました(図1)。
また、ビタミンDとアンブレインは、共通して破骨細胞分化促進活性をもつことが報告されています。アンブレインの破骨細胞分化促進活性にビタミンD受容体が関与しているかどうかを評価するため、アンブレイン合成酵素の中間体や副生成物を用いて構造活性相関を解析したところ、本活性はビタミンD受容体を介していないことが示唆されました。したがって、龍涎香の生物活性の作用点は多様であることも明らかになりました。

entry-09980図1:龍涎香の主成分アンブレインのビタミンD受容体結合能発見とアンブレインよりビタミンD受容体に高い親和性を示す化合物の創出

さらに、アンブレイン合成酵素の変異体を用いてアンブレイン以外の多様な新しい類似化合物を酵素合成して、ビタミンD受容体親和性を解析したところ、アンブレインよりも親和性が高いものを6種類見出すことに成功しました(図1)。龍涎香がもつ生物活性を薬剤等として利用するための新たな道を拓く成果となります。

Ⅲ.今後の展開

本研究基盤は、龍涎香を薬剤等として利用するための新たな道を拓く成果です。加えて、天然を凌ぐ生物活性を持つ薬剤の創出にもつながるものであり、現在、さらなる成果創出に向けた産学連携・異分野融合の共同研究を進めています。

Ⅳ.研究成果の公表

これらの研究成果は、2024年1月16日、科学誌「Scientific Reports」に掲載されました。

論文タイトル:Analysis of vitamin D receptor binding affinities of enzymatically synthesized triterpenes including ambrein and unnatural onoceroids
著者:Daijiro Ueda1, Natsu Matsuda1, Yuka Takaba1, Nami Hirai1, Mao Inoue1, Taichi Kameya1, Tohru Abe1, Nao Tagaya2, Yasuhiro Isogai2, Yoshito Kakihara3, Florian Bartels4, Mathias Christmann4, Tetsuro Shinada5, Kaori Yasuda2*, Tsutomu Sato1*
doi: 10.1038/s41598-024-52013-7

Graduate School of Science and Technology, Niigata University,1 Department of Pharmaceutical Engineering, Faculty of Engineering, Toyama Prefectural University2 Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata University3 Institute of Chemistry and Biochemistry, Freie Unversität Berlin, 4 Graduate School of Science, Osaka Metropolitan University5
*) Corresponding authors

本件に関するお問い合わせ先
【研究に関すること】

大阪公立大学大学院理学研究科
教授 品田 哲郎(しなだ てつろう)
Tel:06-6605-3193
E-mail:shinada[at]omu.ac.jp [at]を@に変更してください

【広報担当】

大阪公立大学広報課
Tel:06-6605-3411
E-mail:koho-list[at]ml.omu.ac.jp [at]を@に変更してください

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